王様とプロメテウス ~王様とマリ② 後編~

紅茶の水博士は、”プロメテウス”のボタンをカタカタと叩き始めます。するとどうでしょう、そこかしこがガチャガチャと動き始め、パイプからは水蒸気が立ち込めます。
鉄塔の中に轟々と音が響き、もくもくと水蒸気が沸いてきます。「わー、凄いわ!ね?王様?」王様は内心恐くなったものの、マリに悟られてはまずいと、平気な顔でうなずきます。
そこえ、一人の男がやってきました。「やめるんだ、紅茶の水博士!この実験は中止しろー!!」手に斧を持った男が、実験の音に負けない声で叫びます。「こんなに素晴らしい実験をとめるあなたは、いったい誰なんですか?」セバスちゃんが聞くと、博士が代わりに答えます。
「その男はきこりのキッコリーです。何せこの実験が成功したら、たき火の木が売れなくなるからと、邪魔をしにくるんですよ。」ああ、消えない火ができたら、きっと皆がたき火をしなくなり、きこりは仕事がなくなってしまうでしょう。
キッコリーも負けじと返します。「それだけではありません。王様、消えない火は、消せない火ですよ!燃え広がったらどうするんです!王様の大切なこの国が燃えつくされてしまいますよ!」
しかし、王様は消えない火の素晴らしさに、そんなことには気が回りません。「キッコリーよ、この素晴らしい実験を邪魔するでない!」王様に止められては、キッコリーもどうしようもありません。そうしている間にも、”プロメテウス”がちゃがちゃといろいろな歯車を回し、消えない火の実験は進んでいます。普段はうるさいマリーも、静かに実験を見守ります。
「あともう少しで、消えない火が完成しますよ!」紅茶の水博士が、重そうなレバーをがちゃりと降ろしました。
プォーーーン!!
”プロメテウス”から大きな音が響き渡ります。「できました!実験は成功です。消えない火が完成しましたよ!」
「なんと素晴らしい!!さっそく火をみせてくれ!」王様は待ちきれないようすです。
博士が、”プロメテウス”の大きな釜を開けると、鉄で出来た薪に、確かに消えない火がついているではないですか!
「凄いわね!消えない火は、鉄も燃やしてしまうのね!」王様も驚いています。「これは素晴らしい。ちょっと私に持たせてくれるか。」王様が薪をうけとると、マリも手を伸ばしました。
「王様はずるいわ!私にも見せて」「待て待て、待つのじゃ!まずはわしにじっくり見せるのじゃ!」「王様だからってずるいわよ!私にも見せて!」王様は、少女のマリと張り合って、本当に子供みたいですね。博士もセバスちゃんも呆れ顔です。
「まぁまぁ、王様、消えない火なのですから、焦る必要はありません。マリちゃんに見せてあげてはどうですか?」博士が大人の意見を伝えましたが、王様は聞きません。
マリが手を伸ばすと・・・、王様は慌てて薪を放り投げてしまいました。「あっ、大変!!」マリがあわてて叫びましたが、消えない火は窓から森へ出てしまいました。
「何ということです、火が燃えうつっててしまうかもしれません。すぐに消しに行かなくてはなりませぬ!」セバスちゃんは大急ぎで外に向かいました。王様とマリ、博士も慌てて追いかけます。表にでると、一本の木に火が燃え移っていました。
「大変じゃ、セバスちゃん、を持ってくるのじゃ!」自分が投げたのも忘れて、夢中で火消しに走る王様、セバスちゃんも急いで水を探しにいきます。しかし、博士は動きません。「どうしたの?博士」「王様、これは消えない火なのです。それは水でも消えない火なのです。私、消し方を考える事をすっかりわすれておりました。」
これには王様もびっくりです。「何じゃと、それは本当か?セバスちゃん、とにかく火に燃え移った火をけすのじゃ!」木に燃え移った火はどんどん大きくなっていきます。「王様、私にお任せ下さい」セバスちゃんがホースを引っ張って水をどんどんかけます。
けどやっぱり消えない火、いくら水をかけても消えません。「ダメよ、セバスちゃん、本当に水でも消えない火なのね。あーどうすればいいのかしら」マリもすっかり困り顔です。
王様にもいつもの元気がありません。「どうすればいいのじゃ、これでは町中に、いや国中に火が回ってしまうわい!!博士、本当に方法はないのか?」博士は困り顔です。
「すいません、王様・・・。」燃え広がっていく火を前に立ち尽くす王様達、このままでは、もう30分もしないうちに森は火の海になってしまうでしょう。その時、ズシーン、ズシーン・・・と、森の中から音が聞こえてきます。
燃えている木の周りの木が、どんどんと倒れていくではありませんか!?「おー、これなら火は広がらずにすみそうじゃ、一体誰じゃ!?木を倒しているのは??」ズシーン・・、倒れる木の中から、斧をもったキッコリーが現れました。
「王様、大丈夫ですか?ひとまずこれで火は広がらずにすみそうですね!」
「あー、キッコリー、お主のいうことを聞いておけばよかったのじゃ、わしが愚かじゃった。」「キッコリー、私もです。あなたのいうことを聞いておけばよかった。」王様も博士も、キッコリーに謝りました。
「いいのです、博士、王様。もし僕が木こりでなかったら、僕も消えない火を欲しがったでしょう!でも、この火はどうしましょう・・。」周りの木は倒れても、燃えさかる消えない火を消す方法が見つかったわけではありません。
その時です、マリが何かを思いついたように杖を振りました。「バンバン、ルン!」マリは燃えている火に杖を一振り、魔法をかけました。
「マリや、一体何をしたのじゃ?」「いいから見てて、私の考えが正しければ」皆が木をみていると、だんだんと火が小さくなっていくような気がします。「今よ、セバスちゃん、水をかけてみて!」「はいです!」セバスちゃんが再び水をかけると、なんと火が消えたのです。
「これは一体どういうことなのです?」博士がマリに聞くと、「今のは火の魔法よ!消えない火を、私の魔法の炎で燃やしたの」
「マリさん、ありがとうございます!もしキッコリーとあなたがいなかったら、私は国中を燃やし、取り返しのつかないことをしてしまう所でした。」博士はすっかり落ち込んでいます。
マリはいいました。「博士の発明は素晴らしかったわ。消えない火を、人間の力で消す方法を考えてね!」キッコリーも博士を励まします。「何回でも実験してください!もしまた失敗したら、いつでも木を倒しますよ!」
「わしも、消えない火の便利さに目が眩んでいたようじゃ。もっともっと勉強して、立派な国王にならなくてはいかんな。」セバスちゃんも王様の言葉にうなずきます。「じゃあ王様、帰りましょうか。お城の人形も退屈してるわ!」
                       ~王様とプロメテウス  END~

今回のお話しに出てくる、プロメテウスは映画にもなっておりますが、ギリシア神話において、人類に火を与えたとされる神様はです。はたして、火を手にした事は人々にとってはよかったのか、火は多くの幸福をもたらすと同時に多くの不幸ももたらしたかもしれません。
人々を闇の中でも照らしてくれる”火”、使い方によっては、恐ろしい兵器に変わります。今、世間で非常に関心を集めている原子力も、もし完璧に制御して使う事ができれば、人類にとっては、とても便利なものなのでしょうね。
ただ、果たして便利なものを追い求める事が本当に正しい事か・・・。わが国は世界で唯一の原爆による被爆国です。
原子力の問題は、ただ環境やエネルギーということだけでなく、便利な世の中を作る事、成長していくことを望む今の世界の姿が正しいのか・・、そんな問いかけをもっているのではないかと僕は思います。きっと正解がない問題なのでしょうが、消えない火は消せない火、これを忘れてはいけません。

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